わったり☆がったり

왔다 갔다(行ったり来たり)な毎日です(*^_^*)

零下13度のソウルに行ってきた!

私は「Study Tour」という旅が好きです。
無計画にダラダラまったりする旅も好きだけど、自分だけでは行けないところに行ったり、会えない人に会えたりする旅は楽しい。

ってんで、12月26日~28日の3日間、折悪しく大寒波に見舞われながら韓国・ソウルで《教育》について考えてきました。以下、メモ的に。

「創造的民主市民を育てる革新未来教育」

ソウル特別市教育庁の「民主市民教育課」のさまざまなポジションの方や、中学校・高校の歴史教員のみなさんとお会いして、レクチャーを受け意見交換しました(時間が全然足りなかったけど)。一言でいえば超刺激的! なにせ、教育庁の建物や公用車にドドンと「創造的民主市民を育てる革新未来教育」と書いてあるし、いただいた名刺にも「すべての人びとの幸せな未来をめざす革新教育」と書いてある・・・つまりは教育改革の真っただ中なわけですが、その改革のベースに「人権」とくに「学生の権利」を明示しているんですね。もちろんその背景には朴元淳市長や文在寅大統領といった市民派人権派が政権をとっているということがあるわけですが・・・(そして韓国は大統領や首長が変わると教育政策をはじめとしてさまざまな政策が見る影もなくひっくり返ってしまうということが多々あるので、私が見て/聞いてきたことも「すごい!」中身ではあるけれど、政権変わったら消えてなくなるかもしれない・・・という不安定さを否定できないのも確かなのですが)

実は昨年9月にも韓国に行きまして(韓国で考えたこと - わったり☆がったり)

そのときは「代案教育運動」という民間の動きを勉強させてもらいました。そして、公教育の方でも教育改革を進めるための拠点校として「革新学校」というものがあり、加熱しすぎた受験競争と格差社会の問題をなんとかせねば・・・という課題意識はあると伺っていました。今回の旅では、そういった公教育側の動きを見ることができた、ということです。

ソウル特別市では2011年に「民主市民教育チーム」というPTが立ち上がり、それが2015年に「課」に昇格したのだとか。その背景には①知識中心・入試中心の教育の見直し ②受験/就活競争の過熱と格差の拡大がもたらした社会的葛藤への取り組み という要請があったーーというのは去年聴いた話と重なるところでした。そして、教育基本法第2条「民主的市民の育成」本義に立ち返って、未来社会にふさわしい教育に変えていこうとしているのが「いま」だとおっしゃっていました。

具体的には、民主市民教育課のなかに5つのチームがあります。

①学生自治チーム:児童生徒が学校運営に参与する仕組みづくりや、韓国社会の歴史や課題を学ぶフォーラムやプログラムの整備などを担当するチーム。ソウル特別市は「学生人権条例」を定めているので、それに基づいて校則等の見直しを子どもたち自身が議論している最中だそうです(注:韓国では「学校に通っている人」全般を「学生」と呼び、日本のように「児童」「生徒」「学生」を使い分けない)

②開かれた世界市民・多文化教育チーム:日本でいうところの「国際理解」「多文化共生」の担当。移住者受入れに関していえば、韓国には「多文化家族支援法」という法律があり、各道に支援センターがあって、韓国語教育等々の支援メニューが整備されてもう10年ぐらい経っており、日本より法整備は遥かに進んでいます。ただ多文化家族の子ども(日本でいう「海外ルーツの子ども」)の教育に関しては「いかに韓国語に早く習熟させて適応させるか」に重点がある印象だったのですが、今回話を聴かせてもらった限りでは「母語保障」「バイリンガル教育」という視点も入っていました。印象的だったのは「多文化家族の子どもがいるクラスの韓国人の子どもたちが、クラスメイトの母語を一緒に学べるプログラムを保障する」というお話でした。「英語一辺倒を変えていきたい」そうです。

③読書・人文社会教育チーム:「対立・葛藤から学ぶ」プログラムづくり。つまり「対立や葛藤を調整し、ともに未来を志向する能力」を育てることが「平和教育」だという認識で、そこを担当するチーム。ここは韓国ならではというか「南北統一」という命題に係わるミッションを担っているということです。朴槿恵政権のときに「歴史教科書の国定化」という動きがあり、全国の歴史教員が反対の声を上げたのですが、そこで活躍した人たちが抜擢されているようでした。

④学生人権教育センター:他のチームも「人権」ベースなのですが、ここが人権教育担当。センターには事務官、奨学士(日本でいう指導主事)とともに、子どもや保護者からの相談に対応するスタッフ、「労働」「セクシュアリティ」担当の専門調査員のスタッフがいて、具体的な告発や救済の仕組みづくり、教育プログラム・コンテンツ開発とそれらを用いた教員・保護者向け研修の実施なども担っているそうです。韓国では中学生もアルバイト可能(年齢を聞きそびれました・・・)なので、アルバイト先での不当労働行為や搾取を防ぐためにも労働教育を行うのだとのことでした。それと2016年に江南区の地下鉄で女性がヘイトクライムの犠牲になる事件があり、#me too運動が盛り上がったことを受けての「スクール #me too運動」も活発だそうです。

⑤民主市民教育支援チーム:日本でいうところの「能動的・主体的な学習」活動推進の支援を考えるチーム。また、学校外でのボランティア活動/社会体験学習の条件整備や受け入れ先の確保といったことも体系的に行う、とのことでした。

そして、もう一つ別に「学校革新センター」というところもあり、そこは「革新学校」で取り組んできた実践を、一般校にも広げていくために新たに設置されたのだということでした。ちなみに「革新学校」は「この学校ではこういう理念に基づいてこういう教育を行います」という「革新」の内容を保護者に説明し、保護者の過半数が賛成すれば革新学校になれるのだそうです(逆に言えば、保護者の賛成が得られなければ革新学校になれない。教職員が理念と目標を共有し、不安を持つ保護者にもきちんと説明できることが条件ということになるし、賛成した以上、保護者にも革新の主体になってもらうのだということのようでした)。

歴史の先生たち

龍山区にある植民地歴史博物館で、歴史教員のみなさんと交流会をしました。

rekishimuseum.jimdo.com

交流会の後、お食事、呑み・・・と延々夜中まで(みなさん、次の日も学校なのに!)お話して、すごくおもしろかったのですが、先生方の関心が「ヘイトスピーチ・排外主義にどう向き合うか」という部分にあったのがとても印象的でした。

前述したように、韓国には「在韓外国人基本法」「多文化家族支援法」といった、移住外国人の社会統合をめざす法律がちゃんとあって、相談機関や支援センターも日本よりはるかに整備されていますが、日本同様、移民の多い地域・少ない地域の偏りもあれば、取り組みにも差異があり、ヘイトスピーチや差別事象も看過できない状況があるようです。学校でいえば、侵略や葛藤・対立の歴史の知識が「〇〇が侵略してくる―」だの「〇〇は韓国嫌いなんだろ」だのと排除や攻撃に利用されることもあるそう(日本とおんなじやん・・・)。今回のツアーは大阪の在日外国人教育に取り組む先生方のツアーだったので「マジョリティの子どもたちの方にどうアプローチするか」「マイノリティの子が疎外感を抱かないような授業設計とは」といったところで、かなり共感するところが多かったです。そのなかで個人的に印象に残ったのは「そもそも韓国の歴史教育単一民族史観/韓国人から見た政策史が中心なので、マイノリティの子どもたちは興味を持ちにくいだろうし、マジョリティの子どもたちにはマイノリティの姿が見えにくい。歴史教育全体をどう変えていくかがほんとうに大切」と言っておられたことでした。そこは日本もまったく同じ! 政治の中心にいた人たちだけを追っかけているのでは、その政策によって庶民の生活がどんな影響を受け、私たちの父や母のその先につながる人びとがどんな思いで生きてきたのかはまったく見えない。国民のなかでも周縁にいた人、マイノリティは必ずいたわけで、そこに目を向けるような歴史の描き方・学び方があるはずですよね! と、心強い仲間を得たような気持ちになったのでした。

東アジア、連帯するしかないじゃないですか!
さいきんの日本政府は韓国にケンカを売ることしか考えていないような言動ばかりですが、そんな今だからこそ、民間のわたしたちは冷静に手をつなぎたい、つながねば! と思う2018年末でした。