わったり☆がったり

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個人的なことは社会的なこと~『焼肉ドラゴン』

兵庫県立芸術文化センター《鄭義信三部作 一挙上演》
『焼肉ドラゴン』を観てきました。

既に何回か観ている、大好きな作品。

 

時は、1970年前後の約2年間。
場所は、たぶん(笑)伊丹空港近くの兵庫県のどこかにあった朝鮮人集落

ホルモン焼きの店「ドラゴン」を営む家族と、その周辺の人たち

在日朝鮮人の歴史を描いた作品ですが、
そこには高度経済成長真っ只中の日本社会が映っています。

1世の両親や、在日の親戚を頼ってやってくる韓国人を
韓国の役者さんたちが演じているので、
1世のニホンゴがリアル。
日本語と朝鮮語が自在に飛び交う空間も、
1世がまだお元気で大勢いらっしゃった頃の空気を髣髴とさせます。
(そして、いまも1世の親と2世の子ども、という外国人家庭では
こんな空気があるんだろうな。と思う)

 

私も、観ているといろんな人の顔が浮かんで「あるある!」なんだけど
昨日は在日コリアンの友達も観に来ていて、
「在日あるある過ぎやわー」との感想を聞いて、また考えてしまいました。

 

私も初めて観たときは号泣したし、
一つひとつのエピソードが切なくてやりきれなくて、
どこにどう怒りをぶつければいいのか、
オモニの「これがわたしの運命(パルチャ)か!」という叫びに
やっぱり胸がつぶれる思いもするのだけれど、

それはやはりどこまでいっても、
「知り合いの誰か」の「あるある」であって、
大好きな人たちの怒りや悲しみとダブってのやりきれなさ、なんだな。

 

自分自身のやるせなさ、やりきれなさ、とは違う。
(もちろん、私には私の痛みもやりきれなさもあるし、
  だからこその共感でもあるのだけれど)

 

800人入るホールは満員で、一緒に笑って、一緒に手を叩いていたけれど
その800人の中には、
自分自身のこととして、シンクロできた人たちと
大好きな誰かのこととして、共感していた人たちと
「へえ、そうなんや・・・」と、在日現代史の扉を開かされた人たちとが
グラデーションをなしていたんだな、と
帰り道、友だちの隣で考えました。
そして私にとって大事なのは、
そんなグラデーションの存在をしっかりと認識したいということ。

 

演劇は演劇だから、歴史学習のために見るわけじゃないし、
基本的にはエンタメで、楽しめることが大切で。

鄭義信さんもそのへんはプロだから、めっちゃ楽しい舞台です。

ただ、時間的・空間的に異なるところへ意識を飛ばし、
異なる人生をひととき体感することで、
自分ではないだれかの視野から見える景色を感じ、考えることが
演劇の楽しさだし、豊かさだと思うのです。

素敵なお芝居というのは、
ただ受け身で、楽しませてもらうというだけでは終わらない、
ざらざらした感情の引っかかりや、
思わず知らず人生をふりかえって嘆息してしまう感覚を残します。

なぜなら、演劇によってつくり込まれた細部のディテールが
個別具体的でリアルであればあるほど、
多様な観客の琴線に触れる普遍性をもつから。

それが楽しくて、私はいつも劇場に向かいます。

 

描かれているのは在日コリアンのある家族の、
戦争で片腕を失くした1世のアボジと、
済州島から逃れてきたオモニと、
大学は出たけれど就職できないヒョンニムと、
学校でいじめられている「ボク」・・・の話なんだけど、
その向こうに高度経済成長と万博で浮かれている
日本社会がくっきりと見えて、
この人たちなしには成り立たない日本社会を、否応なく感じる舞台。

「個人的なことは社会的なこと」

だから、たくさんの人に観てほしい。
『焼肉ドラゴン』は終わっちゃいましたけど、
3部作の残り二つは、当日券がきっと出るので。

 

おまけ。

鄭義信さんの演劇は、最近はやりの「静か系」ではなくて、
きちんと大きな声で、客席に向かって台詞を言う系なんだけど
「あるあるー」と思って観ていた人たちにとっては、
「静か系」に共通するリアル演出だったはず。
下町の、騒々しいオッチャンやオバチャン、
昼間っから酔っぱらってグダグダで、歌うわ喚くわ(笑)
いちいち、御託が芝居がかって仰々しい感じ(笑)(笑)
※「静か系」というのは、「いちいち滑舌よく大きな声で前向いてしゃべる」のは
通常の生活ではありえないでしょ、というので、静かに会話するとか、
同時にいろんな対話が散発的に発生するとかいう演出スタイル。つまり、
「より日常生活に近い形を舞台上に再現する」感じなのですが、
その意味では『焼肉ドラゴン』の舞台は関西の下町の日常をリアルに再現した
「静か系」だよなーと思うのです。騒々しいけど(笑)

(↓ 好き過ぎて、戯曲集買っちゃう(*^_^*)的な)

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