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「近代化」を問い直したいーLACMA「TheSpaceBetween_ModernKoreanArt」に寄せて

ロサンゼルス郡立美術館(LACMA)で韓国現代美術の企画展をやっていて…。

1897年から1965年までの韓国の近代をテーマに、韓国現代美術館(MMCA)から130点の作品が貸し出されているそう。で、その作品選考にRMが参加し、10点を選び……その10点に関してはRMによる音声ガイド(英語/韓国語)がある! というニュースに舞い上がった私。

LA行きたい…

v.daum.net

で、こういうふうに訳してまとめてくださる方がいて、ありがたや。

 

1897年から1965年…《韓国では類を見ないトラウマと混乱の時期》とまとめられているけれど、そこには当然、隣の大日本帝国(日本)の影があります。1897年といえば日清戦争が終わり台湾が日本領となって…の時期で、日露戦争からの大韓帝国保護国化、併合、植民地支配、解放後の朝鮮戦争……そして1965年といえば日韓基本条約。要は日本の植民地政策のスタートから「清算」までの時期がすっぽりあてはまる時期です(「清算」とカッコつきにしていますよ…私は清算すんだとは思ってないよ…)

 

「RMがオーディオガイドに声を貸す!」ニュース自体は日本の『美術手帖』などでも取り上げられているのだけれど、この特集が何をテーマにし、どんな作品群が韓国から貸し出されているのか(なんならRMが何をセレクトしたのか)も、日本語ではほぼニュースになっていない感じで、モヤる私。日本語メディアが及び腰なのか、HYBE(BTS…RM自身)が気を遣っているのか、何にしてもモヤる。そう言いながら私も、このRMのセレクトが日本で大きく報道されたら、またぞろ排外主義者が「やっぱりBTS反日じゃん!」と喜び勇んではしゃぐであろうことは想像がつくから、モヤモヤは止まらない……(だから、こんな日本に来てくれるだけでありがたいというか、私は正直かれらに、いまの日本に来てとは言いづらい…とずっと思っている)

 

ちなみに、RMが選んだ10点

1.チェ・ヨンシン 高宗帝御真(1920):宮廷画家による肖像

2.ナ・ヘソク 自画像(1928):女性画家・フェミニスト

3.オ・ヂホ 南向きの家(1939):印象派・開城の自宅を描いた作品

4.イ・ケデ 青いトゥルマギを着た自画像(1948-49):朝鮮戦争後北へ亡命した作家

5.チャン・オッチン 渡し舟(1951)

6.パク・スグン 遊童(1963)

7.ピョン・ウォリョ 1953年9月板門店の休戦会談場(1954)

8.ユ・ヨングク 作品(1957):韓国抽象美術の先駆者

9.キム・ファンギ 山と月(1958)

10.クォン・ジンギュ 比丘尼(1971)

作品写真もこちらにリンクがあります。

 

まず、高宗(コジョン)の肖像画を選んでいるところで、私はグッときてしまうわけです……。朝鮮王朝最後の王にして大韓帝国初代皇帝。日本では「ハーグ密使事件」あたりで名まえが出てくるぐらいかな…。
1919年3月3日に彼の国葬が行われると決まり、そこに朝鮮全土から人が集まることを見越してタプコル公園で「独立宣言書」が朗読され、その写しが人びとの手で各地に運ばれ、独立を求めるデモ行進が全土に広がっていったと言われています。つまり、朝鮮の近代化/日帝の植民地支配とそれに抵抗し続けた朝鮮の人びと、その歴史を語る際の、象徴的な人物の一人なんですよね。

三一独立運動のまえに、同じ年の2月8日に東京YMCAで朝鮮人留学生たちが読み上げた「独立宣言(二八宣言)」がありました。日本留学によって近代的な知識、欧米の思潮、民主主義や権利について学んだ人びとが独立運動の思想的担い手になっていたわけです。同様に芸術についても、西洋絵画や音楽について学ぶために日本に渡った留学生が少なくありませんでした。上記、RMが選んだ作家たち10人のうち、7人が日本に留学経験がある人です(留学していないのは宮廷画家である1の人と、小学校卒の6の人、ソ連出身でソ連の美術教育を受けている7の人/沿海州朝鮮族なので、19世紀末から20世紀初頭に移動した人びとがルーツかと)。

…このような悲劇と混乱の中でも芸術家たちは生まれました。彼らは日本を通じ、ときにはフランスやアメリカから直接、西洋の新しい美術を受け入れ、韓国の伝統的な分かと融合しようと努めました。(LACMA HPより)

テーマが「The Space Between(空間のあいだ)」なのですが、RMのインスタ写真を見ると韓国語だと「사이의 공간(あいだの空間)」…ニュアンスが!
そしてインスタで見る限り、130点、絵画だけでなく立体作品や写真などもあり、多彩…(見たいぞー…)

 

帝国主義植民地主義の論理って「遅れた国を近代化してやろう」なんですよね。

そこには、近代化≒文明化≒進歩≒いいこと! という価値観があります。

極東アジアで、たまたま大日本帝国はうまいことやって、先に「近代化」を成し遂げた(?)とはいえ、ほとんどタッチの差に過ぎず、大日本帝国が優秀だったわけでもなんでもない(と私は思う…)のに、「優秀な兄が不出来な弟を導くのだ」という論理で、日本は近隣を侵略して植民地化し、日本を中心にした「大東亜共栄圏構想」を抱くようになります。当然、そういう日本の方針が「正しい」「よいこと」として喧伝され、教育されるなかで、宗主国大日本帝国の人びとは暮らし、育っていたわけですよね。それと対になる植民地・朝鮮の人びとは「日本に支配されて幸せなのだ」というメッセージをひたすら浴びるわけですよね。そして実際に、「進んだ学問」を収めるためには、日本留学がもっとも手っ取り早いという皮肉。

でも、例えば朝鮮農業を「近代化」したかったのは日本の統治上の都合であって、朝鮮人々の暮らしを良くするためではありませんでした。たとえば1918年米騒動で、日本政府は「米という商品」をコントロールすることの重要性を思い知り、流通量コントロールのために利用するべく、朝鮮の米作りに介入し、「改良」という名で朝鮮在来農法の知恵も工夫も無視して日本の「水田」方式を押し付けていくわけです(1921年ごろからの産米増殖計画)。水田づくりのために利水工事に駆り出され、収穫量を上げるために肥料を買わされ(この肥料を売ってた会社が「チッソ」)、米の輸送のための鉄道敷設や港湾工事のために土地を接収されたり労働力として駆り出されたり…と、現地の人びとに負担を強いて行われた「近代化」。それで確かに朝鮮の米の生産量は上がるのですが、それは商品なのでつくった人びとの口には入らない。ほとんどが日本に移入されていく。そんな「近代化」でした。

人が、日々の暮らしのなかで、今日よりも明日が少し豊かになるといいな、楽になるといいな、と願うのは悪いことではないし、人類はそうやって進歩してきたのだと思います。でも、現在SDGsが叫ばれているように、そうやって「進歩進歩進歩…」とがむしゃらに突き進んだ結果が、戦争やら植民地支配やら環境汚染やらを引き起こして、地球の持続可能性を危ういものにしてしまったことも考えると、果たして

近代化≒文明化≒進歩≒いいこと! という価値観

って、そもそもどうなの? と考え直さざるを得ないわけですよね…。

そんな時代に、他国を植民地化したことを「文明化してやったんだ」「日本のおかげで朝鮮は近代化できたんだ」とかいつまでも威張ってる人、だいじょうぶですか? と私は思っちゃうんですが、どうなのかな……。

そもそも、人が自身で「成長したい」と願って高みをめざして努力してつかんだものならともかく、他人が無理やり背伸びをさせて、足がつって苦しい!と言うのも無視して大けがをさせておいて、「私が指導したから君は成長したんだ」とか言い出す人、ダメですよね。大日本帝国の/植民地主義の論理というのはそういうことではないのでしょうか。
(このあたり、いわゆる「体罰指導」是非の議論とか「教育虐待」問題なんかとも似ていると思っています…。歴史から学べることはたくさんある)

 

過日のソウルの旅で、日本の学生さんが「親日vs抗日」ってどうなの?とモヤモヤされていて、あぁ、ちょっとわかるな…と思いながら眺めていたのですが

難しいのは、「人から押し付けられた成長」と「自ら望んだ成長」とは、外から見れば「成長」でしかなく、本人にもその区分は困難だからだと思うのです。

韓国で親日派の過去責任清算問題がいまだにくすぶっているのは、単に「大日本帝国の植民地政策に協力した」だけでは済まず、その当時に得た資源で李承晩時代から軍事独裁政権下において政治的・社会的に主要な地位を占め利益を得る立場についてきたという事情があるから、なので日本で安易に使用されている「親日反日」用語でものを考えるわけにいかない(日本でのその用語は、ほんとうに無責任でムカつく…のはさておき)。ちなみにRMがインスタで自身と一緒に撮影している『青いトゥルマギを着た自画像』のイ・ケデさんは朝鮮戦争直後に北へ亡命した方で、軍事独裁政権下の韓国では作品は展示することが許されず、長年死蔵されてきた作品でもあります。こういうことにも「親日派」問題は関わってくるのです……。

また、植民地期に「親日派」でいたことによって築かれた「資源」とは経済的なものだけでなく、知識や人脈といったものも含みます。……とはいえ、そもそも「親日派」なんてつくりだしてしまったのは大日本帝国なわけなので、私は「親日派の断罪」ニュースを聞くたびに複雑な気持ちになります(ある意味、植民地支配の責任をストレートに責められている方が気が楽…)。

 

芸術の世界も、そこと無関係ではなく……。

1920年代や30年代に、絵画を学ぶとか、音楽を学ぶとか、ましてや留学できるとか、かなりの富裕層&インテリ層だったはずで、大部分の庶民にとってみれば「贅沢でいいね」という人たち(だからRMセレクトにはあえてパク・スグンとかピョン・ウォリョンとか入ってるのかなとか…)。でも、そんな「お金持ちのお嬢さん」だからこそ留学して「女性の新しい生き方」に触れ、結果その生き方を理解されず晩年は不遇のうちに亡くなったナ・ヘソクのような作家もいるわけで…(このセレクトも嬉しい。しかも自画像よ…)。彼らの人生と作品をどう受けとめ、どう考えていくのか、それはとても深い問いを投げかけていると思います。

……あー、やっぱりLA行きたいぜ……絵の前で考えたいぜ…。ていうか、韓国の国立現代美術館で同じような企画展するなら、それをめざして行こうかな(別に企画展なくても、フツーにいつでも行けばいい気もするな…今度行ってみよう…)。ちょっと悲しい/後ろめたいのは、この時期の朝鮮(韓国)の作家の作品って、たぶん日本のあちこちにもたくさん所蔵されていると思うんですよね……。それが植民地と宗主国……。

 

しかし、こうやって絵を観ながら考えていたら、ますます好きになっちゃうよ(笑)
ものすごく勉強して考えて、考え抜いて生きているんだろうなぁと思う。ちょっとまじめすぎる(笑)でも、そういうRMがリーダーだから、BTSは世界で存在感を放つのかもしれないよなぁとも思う(贔屓目)。こういう人が、韓国という国から現れたことが、私はとても嬉しいです。彼を悩ませる変な雑音を全部カットできる力を私にください!て、そんな便利なものはないので地道にがんばるよ。がんばる。