わったり☆がったり

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《暴力装置》について考えている……BTS「PROOF」が届いた日に

2022.06.10.fri. BTSの新譜が届いた。

ストリーミングで、その「Yet to Come」「RUN BTS」「for Youth」をぐるぐる聴きながら、なんて私たち(ARMY)は愛されているんだろうか…としみじみ感激すると同時に、これは彼らが徴兵で活動休止になることを覚悟したということではあるまいか? と感じてしまった。根拠は特にない。ただの直感。でも、一度そう思いついてしまうと、そうとしか聴けなくなってしまって、胸が締め付けられるように切なくてたまらなくなってしまった。泣いた。だれが息子を兵役になんて行かせたいだろう。そんな気持ち。

 

そんな情緒のまま、次の日。
2022.06.11.sat. 国際高麗学会の公開シンポジウム、「MZ世代の登場と変わりゆく韓国社会」にオンラインで視聴参加した。非常に興味深く、勉強になった。と同時に、やはり現代韓国社会を理解しようとするとき「分断国家である」ということは外せないんだなと改めて考えさせられた(その分断の遠因は日本だと私は考えている。だから、植民地期のこと以上に、韓国現代史のさまざまな辛い出来事に対して、私は他人事と思えないし、申し訳ないとか日本人であることが恥ずかしいとか、そんな紋切型では表現できないぐちゃぐちゃな感情がある)。韓国に徴兵制度があることは、いわずもがな、分断国家であるからだ。そして、そのことに、21世紀の「人権・社会的公正」に生きようと願う若者たちが引き裂かれ、悩んでいる。防弾少年団のかれらも、その例外ではいられない。そんなあたりまえのことを改めて考え込んでしまった。

 

以下、グルグル考えていることをグルグル書きます(備忘)

 

防弾少年団」のネーミングには「10代・20 代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味があった。つまりデビュー当時からかれらは、「暴力に抗うこと」をミッションにしていたわけだ。そしてBTSとして世界的な大スターになる歩みのなかで、ユニセフの「Love Myselfキャンペーン」に協力したり、国連でスピーチしたりと、その影響力を「社会的公正」のために積極的に使うことを惜しまなかった。

デビュー当時、「ふうん…」ぐらいで聞き流していた私が関心を持ったのは、2018年のRMの国連スピーチだった。「あなたのことを話してください」というその内容に痺れてしまい、なんか尖った少年?を打ち出してたアイドルだと思っていたのに、いつの間にこんなことに…? と、楽曲をときどき聞くようになった。そしてコロナ禍、「Life Goes On」に盛大に慰められたことで、沼ハマ一直線…という話はさておき。

 

新しい、とはいえ9年間の軌跡をふりかえる集大成の意味合いが濃いアルバム「PROOF(証明)」がリリースされ、私にも13日に届いたけれど、実を言うとものすごくモヤモヤさせられてしまっている。

 

モヤモヤの原因はこの方がまとめてくださっている、この経緯…

Who Is Jeong Bobby and What Is Going On? Here’s The Summary for BTS Army - はちみつと焼酎

 

HYBE、しっかりしてくれ…と思うし、
7人はどう考えているんだろう、と心配になるし、
知ってしまった以上、知らなかったときと同じ気持ちで楽曲は聴けないし、
この問題に向き合って、HYBEに抗議メッセージを送ったり、自分たちなりにHYBEにお金を落とさない/そのお金を性暴力被害をなくす団体に寄付したい、性暴力失くしたい、連帯したい…というARMYたちの存在に、ARMY最高やな!と嬉しくなるし、

…もう感情がぐちゃぐちゃ。

個人的には…PROOFは購入したけど、同額をどこかに寄付しようかなとか、HYBEが何らかのアクションを起こさないなら、ファンクラブは抜けちゃうかな…とか、
考えることも行動も、どうやっても矛盾しまくりの葛藤しまくりになっている。

 

ミソジニーと性暴力、日本も韓国も似たような地獄みの社会だけれど、それでも韓国の若い女性たちの異議申し立て、抗議運動のパワーは、日本より数段熱く、私は尊敬している。日本軍「慰安婦」の問題も、日本の若者の多くが「歴史問題」ととらえているのに対して、韓国の若い人たちは「性暴力/女性の人権の問題」ととらえている、そのズレもこの数年で痛感してきた。歴史的文脈と社会的文脈を正確にとらえ、そこに向き合って現在地を考える、そういう韓国社会だから、#metooも日本とは段違いに広がったのだろうと勝手に考えている。上記の件でも、性暴力の問題として真相解明と再発防止を願う韓国の人たちと連帯したいと切に思うし、その連帯こそ、BTSが大事にしてきた価値観ではないのか? と思っている。

だから、かれらの沈黙が辛い。

とはいえ、性暴力の問題(女性差別)に関していえば、そもそも韓国の民主化を牽引してきたはずの*1586世代がダメダメで、まともに向き合えなかったという問題も大きい(ソウル市長だった朴元淳氏がセクハラ疑惑の渦中で自死され、それを巡って被害女性への二次加害が起きた件は本当に悔しかった。私も朴元淳市長がソウル市のさまざまな人権課題に取り組み、社会的公正のための市民活動を支える仕組みづくりに尽力してきたことを知る一人として、彼のことは尊敬していたから、セクハラ疑惑じたいがショックだったし、当初「まさか」と思ってしまった一人でもある。しかし、そういう周囲の人間がいる存在だからこそ、自身の権力を濫用したセクハラが成立したともいえるわけで、そこを直視できずに「被害を訴えている人」のような表現で被害者を貶める人が民主派(進歩派)のはずの陣営から続出したことが残念でならなかった)。そんななかで、若い女性たち(それこそMZ世代)が孤軍奮闘させられてしまうという構図になってしまって、現在地がある。大統領選挙の際、そんな断絶を埋めようともせず、むしろ対立をあおって得票につなげようとしたことにもガックリだったが、要はそれだけジェンダーギャップの根は深く、文化として社会に食い込んでしまっているのだともいえる(それでも、その課題をしっかり自覚して社会問題化し、取り組まねばと考える人の多さを見るにつけ、日本よりずいぶんマシだと思う。マシだからいいということではないし、地獄みを競い合ってどうするんだという話だけど)

 

それだけ、女性差別は根深い。

その根深さの根本には家父長制がある。日本の場合、天皇制が家父長制的価値観を再生産し続ける暴力装置になっていると私は考えていて、じゃあ、天皇制なんてないのに、韓国はなぜ? と考えていたのだけれど、韓国の場合は「徴兵制」なんだなと、だんだん考える筋道が見えてきた気がしている。分断国家の緊張と、徴兵制。思えば韓国現代史は常に暴力と隣り合わせだ。日本の場合、そこは憲法9条のおかげで国家暴力と無縁に暮らせるような錯覚のなかで生きていられた(ただの錯覚だ。そして「日本の場合」と書いたけれど、沖縄はずっと国家暴力と隣り合わせだった。呑気なのは本土のヤマトだけだ)。その違いはあれど、要は「強い男(家長)が、弱い家族(女子ども)を守るんだ」という価値観が社会の隅々にまで浸透しきっていて、文化になっている。その価値観が天皇制を支え、徴兵制を支えているから、国家はその価値観を糾そうとはしない。その仕組みを揺るがされたら困るからだ。

そしてその価値観が暴力を生む。

この巨大な暴力装置の前で、私たちはどうすればいいのか。

もちろん、やれることはやって、できれば後の世代にこんなクソ装置は残したくないと思って生きている。けれど、「闘う」ことのハードルの高さも重々わかるから、「闘え」と人には言いにくい。私は闘うけどね。そして、闘う人たちとつながっているけどね…。仲間を増やしたいと願いはしても、「あなたも闘うべきだ」とは言いたくない。
(若い頃は、この「べき」論でガンガンに人を誘いに行ってたりしたけれど、年齢を重ねてきた今となっては、そんなガンガン来られても、相手も困るわな…と反省している。もうちょっとやり方あったやろ、落ち着け、と20代の私に言ってあげたい。でも同時に、いま同じようにガンガンやってしまう若い人を見ると応援したくなる/引き留めないんだから、そこも矛盾しているのかもしれない)

 

BTSのIDは人権・社会的公正にあると、私は思っている。

だから、この状況に何か物申してほしい…とつい考えるけれど、

徴兵制に真正面から対峙されてしまう、韓国の若者という立場にあるかれらに、そこまで背負わせるのは、私は気が進まない(だからHYBEしっかりしろや…になるけど、HYBEとて、いくら大会社になったとはいえ韓国の一企業体に過ぎない)。

バイデン大統領に招かれて、アジアンヘイトについてスピーチはできても、韓国の差別禁止法制定に賛成するスピーチはしない。できないのだろうと思う。世論を2分するホットトピック。キャンドル革命で政権についた文在寅政権ですら、差別禁止法を成立させられなかった。#metoo運動へのバックラッシュもある。BTSほどの力を得ても……といって、かれらも韓国人男子に過ぎないのだ。かれらの徴兵を免除するか否かも、ずっと注目されているトピックではあるけれど、かれら自身がどうしたいのかを表明することは難しい。選べない。その緊張状態が、かれらの足元にはあるに違いない。

 

それでも、HYBEには、エンタメ企業として、業界内の性暴力根絶のための仕組みづくりに尽力する姿勢を示してほしいし、係争中の問題案件についても、被害者側を支援する姿勢を示してほしいと思う。今後、アイドルデビューをめざして業界に入ってくる若い人たちを性的に搾取することがないように、性暴力に傷ついて業界を去る人が出ないように、せめてそこでがんばって、範を示してもらわないと困る。

そんな一つひとつの取り組みからしか、私たちは始められない。

私は日本で、反差別の活動を厭わない一人ではあるけれど、自分ができる範囲でできることからやっていることが、ラスボスたる《暴力装置》の解体につながるのかどうかを考えると気が遠くなるし、歯がゆさも感じている。だから、こちらからは見えない様々なしがらみやプレッシャー、利害関係の諸々のなかで、どうすればいいのか葛藤しているのかもしれない、と思うし、もしそうであるなら、沈黙していることを責める気持ちになれないところもある。

 

考えれば考えるだけ、

それでも、それでもさ…とグルグル堂々巡りし続けている。

 

そして一番腹が立つのは、こうやって葛藤して、BTSへの愛と社会正義に引き裂かれる矛盾に少なくないARMYたちか悩んでいても、ラスボスたる《暴力装置》はびくとも揺らいでいない気がすることだ。あぁ、腹立たしい……。

 

「Yet To Come」で、「ただ歌が好き」と繰り返される、それを聴いていると、過大なものを背負わされてしまった少年たちが愛おしく、つらい。”なんだかんだと称賛されるけれど、よくわからない。ただ歌が好きで、ただ努力してきただけ”・・・そう言わせてしまった大人の責任を思う。
と同時に、そういうかれらももうアラサーで、少年ではいられないのだとも思う。「防弾」側から、うっかりすると「弾」になってしまう側へ、かれらの立ち位置も変わりつつある。そこで「防」の側に立ち続けることができるのか。私には、そこに立ち続けたいという宣言の、ラブソングのようにも聴こえている。

 

まだしばらく、葛藤は続く。Life goes on。生きている限り。
考え続けるしかない。

こんな宿題を21世紀にまで積み残してしまって、ほんとうに申し訳ない。

 

※2022.06.14.バンタン会食を経ての追記

仲睦まじく、よく食べよく飲みよく笑い……の7人にほっこりしつつ、第2章は個人活動も……という話の内容に(これまた私の勝手な/HYBEに対する推測)、あぁ、やはりそうかと確信した。兵役による活動休止もちゃんと視野に入れてますよというメッセージを暗に示すことが、今回のカムバの隠れたミッションだったのではないか。政府に楯突いたりはしませんと。だとするならば、裁判で係争中の事案も、判決で白黒ハッキリするまでは沈黙するのだろう……。下手をしたら、白と出たらそのままスルーするつもりでいるのかもしれない(HYBEは)。しかし、そこは白だろうが黒だろうが、そもそもそんな「疑惑」が生じることが問題なのであり、白と出ても性暴力反対の姿勢を示し、それが起きない/起こさないための具体的な仕組みを構築すべきだ。それは別に、政府に楯突くことではないし(とはいえ、女性家族省を廃止すると言った現政権下である……)。HYBEがそこに及び腰にならないように、そこでがんばってくれ…というメッセージを送りたい。

……それにしても。もはや7人が息子のように愛おしくて、楽しげにごはん食べているだけで泣きそうになる私のメンタルがヤバい(笑)そして、かれらは「休止」なんて一言も言ってないのに、その単語がニュースのヘッドラインにきてしまうメディアよ……(悲) と、またもや感情はぐちゃぐちゃ。

RMが謝ることじゃないんだよ……。上記、ぐちゃぐちゃ書いたけど、やっぱり背負わせすぎなんだよ。かれがいかに優秀だといっても、20代の若者なのだから。オバチャンは、全力で応援してるよ!愛してるよ!

 

((586世代のアイデンティティは、映画『1987 ある闘いの真実』など観ていただけるとよいかと。私もまさにそのとき大学生で、でも韓国でそんなことが起きているとは露知らず……(日本で指紋押捺拒否/外国人登録法改正運動にコミットする学生ではあったのですが)。民主化を牽引してきた、隣国の同世代が眩しく、勇気づけられてきた者として、いまや「老害」扱いされているのも悲しいし辛い(自業自得……といえなくもないけど、だったら日本の586なんて、もっと老害だよ!……って別の怒りが喚起される私。ダラダラ書いたけど、おかげでPROOFについてたアンケートで何を伝えようかは固まった。ちなみに、寄付先としては『キボタネ基金』を考えています)))

 

*1:586世代