わったり☆がったり

왔다 갔다(行ったり来たり)な毎日です(*^_^*)

余白に響くもの 李禹煥展

行ってきました。李禹煥大回顧展。
作家さんご自身がここまできて、展示にも直接かかわったそうで。
音声ガイドも中谷美紀さんのしっとり落ち着いた朗読に美術館のキュレーターさんの解説に、李禹煥先生ご自身の解説まで入った豪華版。堪能しました…。

視覚の不確かさを乗り越えようとした李は、自然や人工の素材を節制の姿勢で組み合わせ提示する「もの派」と呼ばれる動向を牽引しました。また、すべては相互関係のもとにあるという世界観を、視覚芸術だけでなく、著述においても展開しました。
ーー兵庫県立美術館HPより

「もの」派の何たるかまではまったくわかってない素人ですが
これが一番好きかなぁ…「関係項ーSilence」と題された作品

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大きな鉄板と、石。それが醸し出す沈黙。

同じタイトルで、布カンバスと石。もあって。こちらの方が最近の作品。鉄から布へ…なんだろうか。と考えながら。でも私は上の方が好きかな。f:id:jihyang_tomo:20230113092337j:image

 

基本的に大きな作品が多いので、写真では体感が…


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関係項 於いてある場所 Ⅰ 
大きな、同じサイズの鉄板が7枚。壁から少しずつ、ずれて、すべり、散乱していく。


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関係項 於いてある場所 Ⅱ

こちらは木材。これも同じサイズの角材が、寄り掛かり、支え合い、倒れ…していて。

作品のまわりに何の区切りがあるわけでもなく、観覧する私たちはその間をすり抜けたり、間近に立って見たり、座って見たり…。もちろん「触れてはいけません」なんだけれど、そんな緊張感とともに、自分がいるところも含めて作品の空間の一部を成している不思議感覚。「余白と空間」が李禹煥作品のキモだそうで、それは素人の私でもよくわかりました。


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「Silence」と同じ鉄板と石なんだけど、こちらのタイトルは「関係項 彼と彼女」

何ゆえ、彼と彼女? 恋人? 友だち? どっちが彼? 彼女? 


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思わずしゃがみこんで話しかけてみる…。これは「彼女」の口なのかな…(何やら言いたげな、ささやき声が聞こえそうな。そしてそれは愚痴のような 笑)


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こちらは「項」というタイトル。くりぬかれた鉄板の上に置かれた石と、それを壁から見守るような、くりぬきの縁…。

鉄板には錆が浮いていて。これがこのまま錆び続けて浮き出る模様が変容していって、やがて穴が開いて石が傾いて…まで観察し続けられたらおもしろそう…。と考えている自分にちょっと驚きました。

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鉄は生き物じゃないけど、変化していく。それは生命の変化ではなくて化学変化だけど。石も変化する。日々刻々と。でも日々刻々の変化は小さすぎて意識できなくて、「変わらない」かのように思える。石にしても鉄にしても、建物や風景を構成するものたちについて、私たちは勝手に「変わらなさ」を求めて「懐かしい」という感情に動員しがちだけど、実際にはみんな変わっていくから、同じ風景はそのときその場でしかないんだよね…(それを一言でいうと「諸行無常」だけど、そうまとめちゃうと味気ないな)

 

屋外展示:関係項 棲処
平らな石を敷き詰めて、固定はせず。

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思わずしゃがみこんで撮影。足元で、グラグラ、カタカタ、音を立てて揺れる石を感じて、組まれた石に当たる陽の光と影、不安定なのか安定なのか、判然としない石の塔を、またしばらくじっと眺めてしまうのでした(暖かい日でよかった…)

展示室をつなぐ通路に、何ヶ所かこんなふうに李禹煥先生のメッセージが。

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そしてこれ。

もう、何時間でも観てられるよ! としゃがみこんでしばしうっとり。

関係項ー星の影

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角度を変えて
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ずっと観てられる……(挙動不審?)

いちおう、年代順に展示されていて(とはいえ、単純に年代順なわけでもないのがおもしろかった)、後半は平面作品。こちらもすべてが大きい(すべてが1間四方ぐらい)

立体作品が生み出す空間の響きとはまた違う、余白の響きあい…。
うわぁ、これは音楽だぜ! とワクワク感がいや増しに増し増し…

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線 シリーズ。タイトルも「線から」「線」
(「点」もあって、そちらも音楽が聞こえてきそうでした)

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痺れる……。なんなの、この青い線……。美しい。

点、線……からの
「対話」

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そして「応答」へ

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ひと刷けでグッと絵の具を置いて、その後に手を加えるという手法のようですが、この刷毛目のグラデーションの美しさったらない(素人のスマホ写真ではあまりきれいに撮れておりませんが、これは間近で現物を見てほしいです。素晴らしいですよ)f:id:jihyang_tomo:20230113094036j:image

「応答」か……。と、前に立って考える。やれレスポンスビリティだ、アカウンタビリティだと世間では言うているけれど、まずはこうやって相対して、集中することだよなぁ…とか。相手にも自分にも。なんか、画面を全部埋め尽くすような説明が説明責任かのように錯覚されがちだけど、大事なことはことばになっていない余白や、沈黙が流れる空間に、漂って、こぼれ落ちているのかもしれないじゃない? とか。


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最近、推しの影響でちょっと遠い美術館でも億劫がらずに出かけようぜ!と気合が入って(笑)ありがとうね、남준씨。

ことばに頼りがち、依存しがちな言語脳強めの人間としては、こういう時間をつくらないとダメだな…と実感しまくり(「僕の始まりは詩」とかいうてる推しがアートにはまるのも、そういうことなんじゃないかなーと勝手に親近感)

展示の最初から、「これは音楽だな…」と脳内ではRMの「Yun」が流れ出し、「Silent」の前に立ったら、そのまま「You, Keep the Silence…」とエリカ・バドゥの声がつきぬけていくという……(影響されすぎ 笑) 

李禹煥先生は1936年慶尚南道生まれ。中学生の時に朝鮮戦争が始まり、戦後、ソウルの高校に進学。1956年に親戚を尋ねて来日し、日本の大学へ。以後、日本で創作活動を開始して現在に至っている…というライフストーリー。
一方、推しの推しである尹亨根画伯(Yun Hyong-keun, 1928 – 2007)。8歳違いで、同時代をアーティストとして生きた人だけれど、日本にいたか韓国にいたか、どの環境の違いがもたらしたものを考えるに、何とも言えない気持ちになってしまう。そういえば『海峡を渡るバイオリン』の陳昌鉉さん(チン・チャンヒョン、バイオリン製作者1929年 - 2012)も14歳・1943年に来日して、その後日本で職人の道に入られた人だった(『海峡を渡るバイオリン』は河出文庫。2004年にドラマ化。私的には漫画版『天上の弦』がオススメ)。この時期…まだまだ私が知らない人生の物語がたくさんあるんだろうな。日韓の海峡の、こちら側と向こう側で。たくさん選択肢があったには違いないけれど、それは個人のレベルまで目を凝らせば「選ぶに選べない」ものでしかない場合もあっただろうし、意志的な選択と呼べないような、偶然と偶然が積み重なった結果のものもあっただろうし…。そしてそれがどういう道のりであれ、その人生を引き受けて、アートの世界で生きた人たち。

 

…とまぁ、けっきょくは言語脳が作動してことばであれこれやってしまうんだけど(苦笑)

 

音は、空間がなければ響かない。楽器はもちろん、人間だってそうだ。息が通る空洞、口腔という空間に響いたものが音となり、声になり、意味のあることばになって表現される。その空間をふさがれてしまったら、音は響かない。あるいは、響くための空気がなければ。

身の回りにはモノがあふれているけれど、モノとモノとが、あるいはモノと私たちが生み出す空間、余白が、私たちを生かしているんだと思う。
・・・実はそういうことなんじゃないのかな?

でも私たちは、実体のない空白や余白といったものを嫌って、何かで埋めようとしがち。

物欲を否定はしないけれど(ピンバッチ買っちゃったし…笑)

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ちなみに一緒に写したイヤカフは「INDIGO」イメージだなぁと買っちゃった私物で、指輪も私物でマリーモンドのもの。お気に入りをつけて出かけました。指輪の下に写っているのポストカードが「点」という作品のもの。図録はちょっと手が出なかったけど、美術館いくとポストカード買っちゃうんですよねー。